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       いつの間にか私のことを好きだと言っていたアイツには、別の好きな人ができていて、その相手は相手できっと似たような想いをアイツに抱いている。
 周りから見れば、このままアイツら収まっちまえばいいよと、そう思うだろう。それはそうなのかもしれない。が、ならばアイツが好きだと思った自分の立場はどうなるのだろうか。
 過去に一度した告白は、その時の切羽詰まった状況を回避する単なる策としてアイツには認識されている。確かにアレは状況がさせたことかもしれないが、嘘だったなんて冗談じゃない。この気持ち、そのまま風化させられるなんてまっぴらよ。
 だから。
 
 「ナルト、好きよ」
 
 私はつい声にしてしまった。
 
 
 
 スウィーツ★イターナルトライアングル
       
 盛大に隣りと更にその隣りの人物が口からギャグみたいに液体を吹き出すのを見た。
 ここは近所にある小さな馴染みの居酒屋で、しかもカウンター席で、いったい私は(例え何度していようとも乙女にとっては)一世一代の告白をなんだと思ってるんだろうとも自分に対して思うが、しょうがない。口をついて出てしまったのだから。
 お酒の威力かしら。目の前の色のついた液体を少し見つめる。
 
 「なっなな、サクラちゃん今なんて言ったんだってば!?」
 
 隣りのナルトは立ち上がってそんな私を凝視する。
 その隣りのサスケ君は気管に酒が入ったのか噎せている。ちょっとばかしいい気味だなんて、私も昔の想い人に対して大概酷い。そこは専ら今の自分の恋敵がこの男なのだから、致し方あるまいで済ましてしまうけれど。
 
 「アンタが好き、って言ったの」
 
 にっこり、今日というか自分的に今までで一番の笑顔を作る。
 真顔で縋るような告白じゃ、この男は捕まえられない。というかそんなもので捕まえたくもない。
 自信と強さ。無くったって、ハッタリかませるぐらいの強さがなくてどうするの。だって私は対等でいたいもの。
 
 うわぁ、とナルトが赤くなる。
 
 さぁ、アナタはどうするの。サスケ君。
 
 赤くなったナルトの後ろに視線を遣ると、変な顔をしたサスケ君と目が合った。
 私の顔を見て驚いた顔になった彼は、次の瞬間に、苦虫を潰した様な表情をしたくせに、ふとその次の一瞬で片頬を引き上げてみせる。
 それに対して、あらあら、随分表情が豊かになったことと、嫌みを吐く余裕はない。
 頭の中でゴングが鳴った。
 どういうつもりか知らないわけじゃないと思うけれど、受けてやるわよこの勝負。
 
 「えっと……」
 
 その先のナルトの言葉は後ろから回されたサスケ君の指によって阻まれる。
 
 「こういうことは、二人の時にするもんだろ?サクラ」
 「あら、私たちの中じゃない。別にいいでしょ?サスケ君」
 
 あからさまに私の名前を口に出して牽制するサスケ君に気持ちが高揚する。まぁ、言葉自体はナルトに対しての牽制もおまけ程度に含まれていたのだろうけれど、どうせナルトはサスケ君に口を塞がれているから何も言えない。
 っていうかここぞとばかりに密着するなんて ず る い わ。
 
 「ね?ナルト。アンタもそう思うでしょ?」
 
 サスケ君には不敵に微笑みかえして、ナルトの拳に手をそっと重ねる。距離だって詰めてやる。
 サスケ君だって不意打ちを食らった気分だろうけど、私だって自分の行動に脳がついていってないのだから、ある意味予想外の返り討ちにあった気分なのだ。
 だから、ここからは、自分の意思で、迎撃開始だ。
 口を塞がれて何も言えないナルトは目を白黒させて軽いパニックにおちいっている。
 後ろのサスケ君はというと、この上ない不機嫌顔だ。
 サクラ、悪ふざけが過ぎるぞと鋭い視線で訴えられるけど、挑発しといてそんなのは知らない。
 それに。2人ともいつもズルイのよ。
 答えは出さずにお互い唯一無二の存在だっていう雰囲気を纏うなんて。
 友愛なの?恋愛なの?ハッキリしてくれなきゃ。私は宙ぶらりんでどうしたらいいの!
 睨み返せば、サスケ君は視線こそ逸らさないが、居心地の悪そうな表情をつくる。
 サクラ……、溜め息のような掠れた声が出るのだろう。そう思い、涼しげな口元を見た。
 が、その開かれた口から飛び出したのは、言葉ですらないうぐっ、といううめき声だ。
 
 「ちょーーっと、タンマーーーー!!!」
 
 この話の一番の主要人物だったはずなのに、さっきまで空気のような扱いだったナルトが酸欠ながらに叫んだ。
 どうやらサスケ君は指を噛まれたらしい。ぷはっと口を開いたナルトの顔は赤い。
 やっぱり可愛いな、と惚れた弱みか、悔しいことにこんな時にも思ってしまう。
 男の子に可愛いなんてナルトは怒るかもしれないけど、ナルトの可愛らしさも、男らしさも全て愛おしくてしかたがないのだ。
 敵も心境は同じなのか、噛まれた指をさすりながらも眼はナルトを凝視していた。
 サスケ君、その即物的な視線、相当ヤバいわよ。やっぱり私と同じ種類の好きなんじゃない。なんで素直にならないの。
 
 「てめぇっサスケ、なにすんだってばよッ!」
 「五月蝿い。お前は黙ってろ」
 「っんだとーー!オレとサクラちゃんの話だろっ!!テメェは関係ねぇ!!!」
 
 ああ、本当に。不器用万歳だわサスケ君。
 明らかに傷ついたサスケ君の眼に、ナルトも動揺する。
 嫌な展開だ。
 というかあまりにもベタな展開に目眩すら起きそうだ。
 けれども、さっきのサスケ君の言葉に声に滲む必死さで、分かってしまった。
 
 サスケ君だってバカじゃないもの。あんな風に黙ってろだなんて言ったら、ナルトが売り言葉に買い言葉で返してくるって分かってるはずじゃない。
 なら、なんでサスケ君は傷つく結果になると分かっていてもあんな返答をナルトに返したのか……。
 
 バカなのは私だね。
 それこそ分かりきったこと、じゃない。
 
 「はいはーい!この話はしゅーりょう!!なに本気になってんのよ二人とも!」
 
 突然の大声に、既に二人の世界にいってしまってい四つの眼がはっとしたようにこちらを向く。
 一事が万事。そうよ。こんなんだからくっつけないんだわ、この二人。
 
 「別にサスケ君が入ったっていいじゃない?私サスケ君も好きだし」
 「えーー!サクラちゃんそんなぁ!!そういうことだってば!?」
 
 もうびっくりしたってばよー、とあからさまに直ぐに胸を撫で下ろしてしまうナルトがちょっと憎らしい。
 サスケ君は一人置いてきぼりを食らった迷子のようだ。
 いいのかしら。そんな無防備で。
 
 「ったく、サスケェ!お前が切羽詰まったみたいな真剣な雰囲気出すからなぁ!オレってば勘違いして……」
 
 あぁ、そういえば一回目の告白が失敗したのもサスケ君が原因だったんだわ。なんかちょっとムカつくわね。
 
 「サクラちゃんが本気で……へっ!?」
 「やっぱり柔らかいのね、あんたのほっぺ。知ってたけど」
 
 普段は拳を埋めたり、抓ったりと酷い扱いをしているが、偶には唇で優しく触れるのも悪くない。
 驚いた瞳が四つ。
 また私を見ている。
 
 自然と零れる笑みのまま、サスケ君の方を見て、サスケ君にもしてあげましょうか?と小首を傾げて問えば、珍しく崩壊した顔でいい、と断られる。
 レディの申し出には丁寧に返すものよ、と追撃してやろうかとも思ったけれど、そこはおさえておく。高い借りができてしまったもの。
 
 それに。
 「私、二人が好きよ。七班が大好き」
 
 これがきっと今の答えなのだ。
 サスケ君の、私の、そしてナルトの。
 いつまで続くかわからない形。漸く取り戻した形。
 なら、続けられるところまで三人でいってみなければ。
 
 ナルトが望んで望んで、漸く取り返した世界。
 いろんなものを諦めて捨ててきたサスケ君が、必死な顔で今、繋ぎとめようとした関係。
 なら、私だって限界までこの形を慈しんでやる。サスケ君には負けないわ。
 こんな方向転換、ちょっと現金すぎかしら。きっと昔惚れた弱みね、なんて。だって、サスケ君が私も合わせて大切なんだって思ってくれてるんだってことが凄く伝わってきて、やっぱり嬉しかったの。
 不変なものなんてつまらないけれど、変化とせめぎ合いつつも変わらない形を保とうとする存在の美しさを、私たちは知っているから。
 
 だから、もう少しこのままでもいいわ。
 でもね、忘れないでねナルト。あの気持ちは本当だった。
 
 
 
 
 
 
 
 10/02/01
 物事は始まった瞬間から常に終わりへ。
 
 +あとがきのような唯の呟きのような+
 旧七班、三角関係萌え!サスケは帰ってきちゃってます。
 仲良く三人でくっついていたいんだけど、友情以外の気持ちが邪魔をしだしてしまうという。
 旧七班時代は三人の聖域だと思います。誰も入れない三人だけの世界。
 でも子どもの世界だから、大人になるにつれ色々なものを抱えていかなきゃいけなくなると、すぐにその聖域から追い出されてしまうんですよね。
 それを必死に目をつぶって、何も見てこなかった振りをして、戻ってきた聖域からはみ出さないように足掻いている青少年たちに愛しさが溢れてとまりません。
 ごっこ遊びしたっていいじゃないか!まだまだモラトリアムの範囲だよ。大人ぶって無理に納得せずにもがけばいい!青春万歳!!
 
 
 と。熱く語りつつ、この△はここで終わりなのですよ。
 というか、認識してしまうと、それはある意味“終わり”、もしくは“区切り”だと思うんです。
 それをサクラの最後の独白に滲ませてみたのですが…。まぁそれはそれ。こういうものは読み手さんがどう思うかに任せようと思っていたのに、今回は萌えゲージが上がりすぎた。笑
 今後のこの区切りの後の話を考えていたりいなかったり。書けたらいいな、とは思う。
 になはともあれ七 班 が 好 き だ !!
 
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